入学初日の話

友達になったのに。知り合いにもなれなかった話

大学入学初日の話だ。

僕は早く友達が作りたくてウズウズしていた。    

そんなふうに思いながらガイダンスなどに出席したからだろうか、ひょんなことから隣に座っていたMくんと話が盛り上がった。

今思えば訳がわからないのだが、入学初日に席が隣になったひとと話が盛り上がり、帰り際Mくんから今から僕の家で遊ばないか?と誘われたのだった。

これが世間で言われる〈入学式ハイ〉というやつだ。

そして僕もMくんと同じく、〈入学式ハイ〉というテンションになっていたので行くことにした。

話を聞くとMくんは長崎から神奈川に上京して初めての一人暮らしを始めたそうで、早く友達を招くと言うイベントをやりたかったらしい。

「僕がそのイベントの初めてでいいの?」と聞くと、彼は「もちろんじゃないか」と言ってくれた。僕は少し怖かったが、同時にこんなにすぐ心を開いてくれて有難いなとも思った。

さすがに今日会ったばかりの人の家にお邪魔するのは勇気が必要だったが、音楽活動を始めて何年か経っていて、それなりの数のお家に行く機会もあったし、なんとなくだが流れに身を任せてお家に行くことにした。

Mくんの家は木造のアパートで、優しそうな口ぶりから分かるようなすごく綺麗に整理整頓された部屋だった。

真新しいソファに座りながら、「大学に入ったら彼女ほしいなあ」と言っていた彼の顔からは、春の匂いがしてきて僕はMくんを友達として好きになり始めていた。

しばらくお互いの身の上話や、高校時代の話をしたあと、「ゲームはするかい?」と聞かれた。

僕は正直ゲームはあまりやらないので、Mくんには正直にそのことを伝えたところ、「スマブラだったらできる?やろうよ!」と言われた。

僕は嬉しかった!なぜならスマブラは僕が唯一できる好きなゲームだったからだ。

そこからは白熱した戦いになった。

何試合もやって、お互い楽しく笑いながら盛り上がった。

18:00ぐらいになると、すっかり暗くなってきた。

僕は入学初日で遅くまでいるのも悪いからと、連絡先を交換してその日は早めに帰った。

「また学校でね!」と言い合って。

その後、Mくんとは数日会わなかった。

Mくんとはガイダンスで知り合ったはいいものの、学科が違ったので授業も一緒にならないまま会う機会がなかったのだ。

そして1週間ほど経った校舎の廊下で、僕はM君を見つけた。

「あっ!Mくんじゃん!おーい!」と声をかけながら僕は近づいた。

「こないだのスマブラ楽しかったねー!ほんとありがとう!」と言うと、キョトンとした顔。

Mくんの周りには、Mくんの友達がら複数人いて「急にすみません!Mくんとは入学のガイダンスで知り合って、お家まで行ってスマブラして仲良くなったんですよ」と説明したところ、周りの友人たちがほっとしたような顔をして、応対をしてくれた。

僕がMくんの周りの友人にも自己紹介をし始めたところで、会話は遮られた。

Mくんは言った。

「ぼく、この人知らない」

驚愕の一言だった。

大富豪の革命か、と思うような状況の変わり方だった。

Mくんの周りにいた友人たちは「えっ、どういうこと?」みたいになり、さぁーっと場が凍りつき僕は完全に不審者扱いになった。

「またまたー、そんなこと言って」

「ぼく、この人知らないよ」

「連絡先も交換したじゃん」

「このメールアドレスは僕だけど、僕じゃないよ」

「えっ!」

「えっ!!」

Mくんの周りの友人も察して

「そういうことだから!」

と僕をその場から立ち去るように伝えてきた。

僕は納得がいかなかった。

「あんなに楽しくスマブラをしたのになぁ」

まるで子供の頃に行ったデパートのゲームコーナーで知り合った、二度と会えないちょっと気のいい高学年の兄ちゃんのように、楽しい幻だったんじゃないかと思った。

今でもスマブラをしていると、Mくんのことを思い出す。

あの楽しそうに笑った声は、僕の記憶には残っている。

Mくんにとってはもしかしたら初めての友達を招くイベントにしては気に入らなかった過ごし方だったのかもしれないが、僕はあのときのスマブラ楽しかったなと今も思う。ほんとに。

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